SingularityU Japan Summit

齋藤 ウィリアム 浩幸
非常勤執行役員 デジタルイノベーション推進部担当
岡本昂之
Web販売部 Web・コールセンター企画グループ 主任

パトリック

2030年〜2040年にはどのような変化が起こっているとお考えですか?
また、ウィリアムさんは今年の6月にJALの非常勤執行役員に就任されましたが、どのような思いで引き受けられたのでしょうか?

ウィリアム齋藤

現在は第4次産業革命、シンギュラリティーの真っただ中にある。具体的にはAIの進歩により、今の小学生が社会人になるころには、現存する職業の65%が無くなるような世の中になるといわれている。現在のイノベーションは、世の中のあり方を劇的に変えるものだと考えている。

この第4次産業革命がこれまでの産業革命と違うのは、人間が初めて人間の能力を超える技術を作り出そうとしている点である。人間の強みは、集団をひとつのゴールに向かわせるように伝える力、即ちコミュニケーション能力が備わっていることにある。現在ではそのコミュニケーションの手段をSNSやITに頼っているが、これらがどんなに発達したとしても、あくまでバーチャルなものであり、人間の強みであるコミュニケーションの効果を高めるものではない。最終的には、直接会い、相手の顔をみて、身振り手振りも交えながら直接話すことが重要になってくると考えている。

シンギュラリティーにより、テクノロジーが発達して、例えば1週間で働く時間が5日から3日に減って、余った4日間の余暇の過ごし方を考えると、直接どこかへ行き、誰かに会ったり、自分の目で何かを見たり、手で何かに触れたりと、バーチャルをバックアップするリアルな経験をすることがますます大切になると考えている。つまりARやVRが発達するものの、航空会社は2030年、2040年にも必ず存在する。

そのような世の中においても、JALが果たすべき役割は、単にお客さまをA地点からB地点へお運びするということではなく、様々なデータを活用し、旅を快適な経験に変えていくことだと考えている。

JALには、海外のお客さまが日本に到着する前から、日本の印象を創る重要な役割を担っている。例えば、客室乗務員のサービスがそれなりであれば、その国のイメージはその程度だとステレオタイプされてしまう。お客さまが、JALとかかわりをもったそのときから、日本のおもてなしを感じることができるように、様々なテクノロジーを活用して新しい価値の創造に向けて挑戦していきたいと思っている。

パトリック

未来のテクノロジーを考えると、今の貴社のフォーカスはどこにありますか?

ウィリアム齋藤

まず、JALがフォーカスすべきところは安全に尽きると考えている。1960年代から存在しているインターネットが最近活用されるようになった理由がサイバーセキュリティの確保にあったことや、日本車や新幹線が世界で売れ続ける理由が、速さではなく安全であるのと同様に、どのようなテクノロジーを活用しようとも、JALの提供価値は安全であることが大前提である。これからも安全を絶対的に確保しつつ、イノベーションを起こすために新しいことにチャレンジしていきたい。

パトリック

具体的に日本のおもてなしをテクノロジーの活用により感じることができるようにするというのはどういうことでしょうか?

ウィリアム齋藤

例えば、機内で客室乗務員がお客さまにお飲み物を提供する所作はすでに高いレベルにあるが、様々なデータを徹底的に活用することで、何を、どのようなグラスで、どのような所作で提供すれば一人一人のお客さまにさらにご満足いただけるか検討し、人によるサービスに磨きをかけることなどが考えられる。テクノロジーを駆使して新しい価値を提供し、データに対する期待価値を高め、さらにデータを活用するサイクルをまわしていくことが重要だと思っている。

パトリック

JALはすでに昨年からAIを活用したチャットボットによるお客さまサービスにチャレンジされているとうかがっています。狙いを教えてください。

岡本

JALはIBM Watsonを活用したチャットボット「マカナちゃん」を7月末より提供している。AIをサービスのフロントラインで使うのは大きなチャレンジだった。AIはバックヤード、例えばコールセンターのオペレーター支援などでの活用は目立つが、フロントラインでの実例はまだまだ少ない。まずはこの領域に踏み込み、テクノロジーを活用したおもてなしの実現にスモールスタートで取り組むこととした。発展途上の部分もあるが、人と人の直接コミュニケーションを補完する手段としてマカナちゃんを通じ、お客さまへ新しい旅をご提案することにより、新しい価値創造につながるという想いをもって取り組んでいる。
昨年12月に第1弾を公開し、自然言語理解によるチャット形式で旅の疑問や不安に回答するサービスを展開。7月末にリリースした第2弾では、よりお客さまに寄り添う機能として、性格診断機能を追加、さらに世界最大の旅行サイトであるトリップアドバイザーと連携して、より新鮮かつニュートラルな情報をお客さまに届けられるようにした。お客さまには、AIと会話を楽しみながら、新しい旅を想起して頂きたいと考えている。常にお客さまに寄り添い、人とテクノロジーの融合を心掛け、JALの人と人のつながりを大切にする価値を提供し続けていきたい。

パトリック

JALの中にもイノベーションの息吹が芽生えていていることを感じます。ウィリアムさんが加わったことで、どのような変化が起こるか楽しみにしています。

(※)「マカナちゃん」人工知能であるIBM WatsonをベースとしたJALが無償で提供するバーチャルアシスタントサービス。

齋藤 ウィリアム 浩幸/William Hiroyuki Saito

非常勤執行役員 デジタルイノベーション推進部担当

1971年カリフォルニア生まれの日系二世。16歳でカリフォルニア大学リバーサイド校に合格。同大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部を卒業。1998年に27歳で「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー」(アーンスト・アンド・ヤング、ナスダックおよびUSAトゥデイ主催)を受賞。BAPIという生体認証システム技術を開発し、マイクロソフト社を含む160社以上の企業とライセンス契約を結ぶ。BAPIは事実上の世界標準規格となり、2004年に自社をマイクロソフト社に売却した。
2012年には、総理大臣直属の国家戦略会議の委員として、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会におけるITなどのインフラ設備構築に貢献、2013年12月より、内閣府本府参与に任命されている。海外では、世界経済フォーラムから「ヤング・グローバル・リーダー」(2011年)および「グローバル・アジェンダ・カウンシル」(2011年)のメンバーとして選出され、その後同フォーラムのボードメンバーにも任命されている。2017年6月より日本航空執行役員に就任。

岡本昂之/Takayuki Okamoto

Web販売部 Web・コールセンター企画グループ 主任

2009年4月、日本航空(JAL)に入社。新千歳空港での運航管理支援業務、人事部での新卒採用業務、グループ航空会社での総務業務を経て、2014年からWeb販売部に配属され、JALのeコマース全般を担当。主にJALホームページのユーザビリティ向上やコンテンツ企画を担当する一方、AIを活用した新しい価値創造、中期計画の立案、デジタル系企業とのタイアップなど、幅広い業務を担う。その他、動画共有サービス「ニコニコ動画」でJALのプロモーションとして展開した「踊ってみた企画」では「JALの岡本さん」として知られ、関連動画再生回数は100万回を超えるなど、JALとして別の顔も持つ。