SingularityU Japan Summit

宮田 喜一郎
代表取締役執行役員専務 最高技術責任者(CTO) 兼 技術・知財本部長

2030年〜2040年の貴社の社会での役割は、どういったものになっているとお考えでしょうか?

当社は、会社の憲法である社憲、「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」を、1959年から掲げてきました。この社憲を原動力に、ATM、駅の改札ゲート、工場の自動化、家庭での健康管理や疾病管理をサポートする製品など、社会の発展に貢献する製品を提供してきています。

特にさまざまな領域で使われるセンサーは、当社の主力製品の一つです。今、世界中でさまざまなデータがセンシングされていますが、それらはハードの中に閉じ込められています。このセンシングデータが、インターネットの情報のように自由に流通する、“インターネットのデータバージョン”とも言える仕組み「センシングデータ流通市場(SDTM)」ができれば、新たな事業やサービスが生まれてくると思います。この仕組みづくりのため、経済産業省など官庁や他企業ともいろいろと取り組みを進めています。

このように、今後の当社は、製品・サービスの提供に留まらず、世の中を変えていく仕組みづくりの中枢を担っていきたいと考えています。

SDTMについてもう少し詳しく教えてください。

現在、インターネット上で画像などの情報は簡単に検索できます。今では日常的に当たり前のように行っているこの行為は、一昔前は不可能でした。今後は、たとえば特定の町の電気使用料を調べたいときなど、欲しいデータを検索したら、簡単に該当するデータを入手できるような時代がくると考えています。そのデータを組み合わせることで、また新しい事業やサービスが生まれることでしょう。マシンツーマシンとは違い、データが自由に流通されるような世の中をつくりたいという考えです。インターネットが使われるようになった25年ぐらい前に似ているかもしれません。

情報が自由に流通できるようになると、コラボレーションの機会も多くなりますね。

その通りです。今回のサミットに参加するパートナー企業の11社を見ても、それぞれたくさんのデータを持っています。その膨大なデータを、新たな仕組みを使い企業や業界の枠を越えてやり取りすることが出来るようになれば、新しい事業やサービスを生み出す可能性は飛躍的に高まるでしょう。
インターネットなど情報系はアメリカが強いですが、センサーについてはグローバルマーケットのおよそ半分を日本の企業が占めています。データ関連のビジネスであれば、まだまだ日本も世界で勝負していけると思います。
当社は、ヘルスケアに関するデータをはじめ、さまざまな “現場のリアルな” データを保有しています。これらの情報を流通させ、他のデータと組み合わせて活用することで、これまでにないビジネスが生まれることでしょう。株式市場のように、データをやり取りする時代。後10年ほどで、このような世界が実現すると思います。

貴社が将来、焦点を当てようと考えている「ビジネス領域」と「テクノロジー」は?

当社は、1933年の創業以来、社会課題の解決に向けて事業を創出し続け、「制御機器」「電子部品」「車載部品」「社会システム」「ヘルスケア」「環境」といった幅広い領域で100以上の事業を展開する企業となりました。

近年、我々が事業を展開している領域は、AI・IoT・ロボティクスなどに代表される急速な技術革新により、市場や環境が大きく変化しようとしています。この変化は、「制御機器」「ヘルスケア」「車載事業」といった成長領域で事業を展開している当社にとって、新たな価値を創造する大きなチャンスです。このチャンスをとらえ、飛躍的な成長を目指すために、今年2017年に新中期経営計画「VG2.0」を策定しました。
「VG2.0」では、当社の強みを発揮し、事業の成長が見込める領域、「ファクトリーオートメーション」「ヘルスケア」「モビリティ」「エネルギーマネジメント」の4つのビジネス領域に全社のリソースを集中していきます。

また技術についてですが、当社にはたくさんの技術がありますが、元々何らかの強い技術があって始まったのではなく、顧客と社会のニーズや課題などを解決するため、そこに密着して必要な技術を開発してきました。その結果として、先ほどもお話したように今では100以上の事業を持つ、ベンチャーの集合体のような企業になっています。つまり、強い一つのコアテクノロジーがあるのではなく、センシングとコントロールを軸に幅広い顧客や社会の課題を解決してきたのです。ここが他社と違うところでもあります。近年、この「センシング&コントロール」に、人の知恵や経験を表す「+Think」という概念を加え、コア技術として進化させています。
人の知恵や経験というものは、多くの情報に基づいた分析・学習の賜物です。IoTやAIなど蓄積された情報の分析と学習を行う技術がそれにあたります。
ロボティクスの分野にも興味があり、研究開発拠点の設立など投資も行っています。現在、工場で働く人材が少なくなりましたが、人口は増え続けており、消費も多くなっていきます。増大する消費に対して効率的に供給を行うためには、ロボティクスは欠かせない技術だと考えています。

今回ジャパンサミットのコミュニティに参加された理由と、期待されることをお教えください。

変化の激しい時代ですので、当社では、将来の絵を描いてそれから遡る(バックキャストをする)という作業を続けていますが、その中でジャパンサミットのスピーカーの方と交流を持ち意見を聞くことが非常に参考になると考えました。 ジャパンサミットへの参加を通じて、未来は直線の延長線上にあるのではなく、指数関数的に成長する先にあるということを意識できる機会だと思っています。

今回のサミットのテーマとして「日本の未来を共に形づくる」を掲げています。全11社のパートナー企業の皆さんでこれを実現することが可能だとお考えでしょうか。

難しい質問です。11社だけで何かが変えられるかどうかはわかりませんが、少なくとも、パートナーの皆さんがどのような「シンギュラリティ」を考えているかという情報や考え方の交換が非常に重要になると思います。 当社は、グローバル企業ですので、日本からの「シンギュラリティ」を世界に広げていくことが出来ないかを考えています。昔ハードウェアが強かった時代は、これをすることも可能でしたが、今はあまり創造性(クリエイティビティ)がないと言われています。また、IoTの時代にある今、ハードウェアも密接に関連しています。ITだけでなく、そこからあらゆる領域において我々も視野を広げ、視座を高めていきたいと考えています。

宮田 喜一郎 / Kiichiro Miyata

代表取締役執行役員専務 最高技術責任者(CTO) 兼 技術・知財本部長

1985年 株式会社立石ライフサイエンス研究所(現 オムロン ヘルスケア株式会社)入社。その後、健康医用機器の開発・企画を経て、2010年にオムロン ヘルスケア株式会社の代表取締役に就任。2014年からは、オムロン株式会社の最高技術責任者(CTO) 兼 技術・知財本部長として、経営視点での技術戦略の策定と実行、コア技術「センシング&コントロール+Think」の進化に加え、オープンイノベーション推進と新規事業の創出を担当。