SingularityU Japan Summit

田中秀武(執行役員 経営企画本部フロンティアビジネスセンター長)
パトリック・ニュウエル(シンギュラリティ大学ジャパンサミット代表)

パトリック

印刷業界は、大きな変換期にあると思います。将来貴社の印刷事業はどのように変化していき、社会での役割はどのようになるとお考えですか。

田中

一般的に印刷というと紙に印刷するものだけと思われがちですが、実際にはデジタル媒体もありますし、我々は印刷物になる前の企画やマーケティングといった部分を含め事業を展開しています。
今後も紙への印刷は減っていくと思いますが、印刷の役割は情報の伝達やコミュニケーションを行っていくことだと思っていますので、その役割は変わらないと考えています。デジタルに関連するものであれば、VR(バーチャルリアリティ)などの映像表現や、空間デザインなどもあります。最近行った事業領域の見直しでは、「可能性をデザインする」がキーワードになりました。様々なものを企画設計していくことが、当社の事業の中心となっていくと思います。

 現在当社では大きく3つの事業を行っています。セキュア、マーケティング、コンテンツなどが関わる情報コミュニケーション、パッケージ、建装材、高機能・エネルギー関連などが関わる生活・産業、そして半導体、ディスプレイ関連に関わるエレクトロニクスです。特に情報コミュニケーションについてお話ししますと、ポスターやチラシの作成、プロモーションなどのマーケティング事業、ICカードやマイナンバーのカード、個人情報に関わるサービスなどのセキュア事業、そして書籍や雑誌の印刷などのコンテンツ事業が含まれます。これらはデジタル化が急速に進んでおり、特にマーケティングの部分ではデジタル化によって成長しています。今後どういった形になるか、可能性が広がっていくと思います。マーケティングの在り方が大きな影響を与えていく中で、顧客サービス体系の変化が課題になると思います。

 その中で、多様化する時代に合わせて当社の価値提供のあり方にも変化が求められています。社会のニーズにもっと応えていくために、昨年、2025年に向けて事業領域の見直しを行いました。「情報」と「くらし」をデザインする社会的価値創造企業として、健康長寿社会、共生社会、ユニバーサル社会、そしてサスティナブル社会の実現に向けて、当社の商品・サービスを提供していくと定めました。

 当社が目指すべき姿は、社会的な課題を解決する企業として、事業そのものが社会貢献となる喜び、幸せを感じられる企業グループです。難易度の高い社会的課題を解決できるようになれば、より目指すべき姿に近づくことができると考えています。

 デジタル化の進展によりペーパーメディアが減少し当社の価値提供のあり方が変わっても、将来にわたって(2030年や2040年になっても)、企業理念にある「情報・文化の担い手として、ふれあい豊かなくらしに貢献」していく役割を担っていきたいと思います。

パトリック

貴社が将来焦点を当てるとお考えのテクノロジーとビジネス領域は。

田中

当社の特徴は「多種多様な業界にわたる数多くのお客様」を持っているということです。そのお客様やマーケットの要望をつかみ、ゼロからものを創っていくのが仕事です。そのためには活用可能な手段、テクノロジーを総動員して新たな価値を生み出す必要があります。したがって、今回のサミットで取り上げられている先端テクノロジーに関しては、人口知能(AI)、バイオテクノロジー、ブロックチェーン、ロボティクス、VR/ARなど、ほぼすべてを幅広く研究しているというのが実情です。
その中でも特徴的なものはVR/ARなどのデジタル表現の先端技術の領域と神経科学(NEUROSCIENCE)の領域です。

特にVRについてご紹介すると、当社は、以前より(印刷テクノロジーとして)文字・画像データ処理や高精細画像撮影、カラーマネジメント、CADデータからの高品質な商品画像生成などの技術を培ってきました。
これに、三次元立体計測技術などを融合・応用し、物品や建物(特に文化財)などのデジタルアーカイブに取り組んでいます。また、デジタルアーカイブしたデータや工業製品のCADデータを、お客様のニーズに応じ、最適な表現系技術を適用して、活用・展開しています。
今回のサミットでは体験型エキシビションのブースで「VRドーム」も展示しています。

もう一つの項目として、神経科学(NEUROSCIENCE)についても取り組みを進めています。
科学技術の発展に伴い、今までベールにつつまれていた「人間の脳の働き」が少しずつ解明されてきています。日常生活の中で受け取る様々な情報を、人間がどのように処理して、記憶しているのか?人間の感情は脳の中で、どのように沸き起こるのか? そして、その後の意思決定にどのように影響を与えるのか?「人間の思考や心の動き」については、興味がつきません。 「なんとなくこれを選んだ」といったような、生活者が言葉にできない無意識下の意思決定プロセスを少しでも理解して、当社が市場に送り出す商品やサービスをより良くしていくことを目標として、信頼できる科学的根拠を蓄積する研究活動を進めています。

また、人財育成の観点からも脳神経科学の研究を進めています。
近年、経営環境の変化が著しくなる中、企業にとって次世代を担う人財の育成が求められています。その手法として、人間の感情、認知、記憶などの心の働きに関する脳神経科学の活用が注目されています。
当社では脳神経科学を活用した教育プログラム「最新脳科学プログラム」を開発し、感情、認知、記憶などに対する脳の仕組みを理解し、パフォーマンスのアップやコミュニケーション能力の向上を目指しています。
今回、これらの検証および開発をより進化させるための拠点として「人財開発ラボ」を設置しました。

パトリック

今回のサミットへ参加することにより、どのようなことを期待されていらっしゃいますか。

田中

印刷を取り巻く環境が大きく変わり転換期にある中で、これから指数関数的に変わっていくテクノロジーに対して真剣に向き合わなくてはなりません。当社の現在の状況を見ますと、ある分野では進んでいる一方で、まだ会社全体として対応出来ているとはいえません。社内から20名が参加し同じ体験を共有出来る今回の機会には、非常に価値があると思っています。そして、今後の当社の取り組みに関する議論のスタートに出来ればと思っています。

 また、人財開発の側面でも期待しています。会社全体としてだけではなく、個人が今回のサミットをきっかけにパフォーマンスを向上することが出来るのか、楽しみにしています。どのような刺激を受け、どのように視座を上げて自らの仕事に繋げていくのか、これらを達成できることに大きく期待しています。

 最終的には、本サミットで得た知見と当社のコンピタンスを融合させ、グローバルな視点で社会的課題を解決する企業を目指します。

パトリック

今回のサミットのテーマとして掲げる「日本の未来を共に形づくる」は、将来どのように実現できるとお考えでしょうか。

田中

今回のビジョンの中に、「旅の第一歩」という言葉がありましたが、そこに大きな意義があると思います。サミットが単発としてではなく継続的に行われていけば、日本は変わり、共に考えていく仲間が増え、結果として新しい日本が出来ていくと思います。その第一回として、頑張っていただきたいと思います。

パトリック

将来投資することを考えると、貴社のどの領域が一番大きくなるでしょうか。

田中

当社は、ソフトとハード、デジタルとアナログの両方のノウハウと技術を持っています。さらにこれまで事業を行ってきたなかで多くの企業と様々な場所でコネクションを持ち、一緒にビジネスを創り上げて展開していくことが出来る立場にいると思っています。これらの特長を活かし、コラボレーションによりいかに新しい事業を生み出していくか、将来楽しみなところです。

田中秀武/Hidetake Tanaka

執行役員 経営企画本部フロンティアビジネスセンター長

1984年、凸版印刷株式会社入社。2003年より経営企画本部にてグループ再編やM&Aなど経営戦略を担当。
今年度からフロンティアビジネスセンター長として、成長領域(「健康・ライフサイエンス」「教育・文化交流」「都市空間・モビリティ」「エネルギー・食料資源」)における新ビジネスの創出に向けたプロジェクト推進や、ベンチャーなどへの戦略投資に取り組む。